福島県産ワインを通じて「Do well by doing good.」/佐々木宏さん、渡辺学さん 【特集企画】うれしいをつなげるサイクル
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福島県産ワインを通じて「Do well by doing good.」/佐々木宏さん、渡辺学さん

(左)渡辺学さん (右)佐々木宏さん

今回は、地元の果物をふんだんに使用したワインやリキュールを製造する「ふくしま逢瀬ワイナリー」(福島県郡山市)の取り組みについてお伺いしました。

同ワイナリーは、「ふくしまワイナリープロジェクト」というプロジェクトのもと設立され、果物の生産から加工、販売までを一体的に運営する新たな事業モデルによって、農産物や地元ブランドの付加価値を高める取り組みを行ったり、震災による風評被害に苦しむ福島県内の果樹農家と手を携えた活動を行っています。これらの取り組みについて、製造する商品のお話などを通じ、同ワイナリーの佐々木宏さん、渡辺学さんに詳しくお聞きしたいと思います。

「6次産業化」で農産物や地元ブランドの付加価値を高める

DOWELL編集部: まず最初に、2015年の「ふくしま逢瀬ワイナリー」設立の経緯からお聞かせください。

佐々木さん: 東日本大震災以降、公益財団法人三菱商事復興支援財団は被災地の復興に向け様々な活動を行っていましたが、より直接的な貢献を志向し、独自に自分たちで何かできないかと模索し始めて、スタートしたのが「ふくしまワイナリープロジェクト」なんです。スタートしてから着目したのが福島県の果物を生産から加工し、販売までを一体的に運営する「6次産業化」です。郡山市にご支援をいただきながら、福島県のモモ、ナシ、リンゴ、ブドウを使って加工して販売していくというプロジェクトがスタートしました。

郡山市の逢瀬町にワイナリーを作って、最初は4軒の地元農家さんにワイン用のブドウを植栽していただいて、そこから少しずつ軒数が増えて、植栽の面積も広げてきました。それは今も変わらず続いています。

渡辺さん: 私たちが何か新しく始めるにあたっては、地元の既存の産業や事業者さんたちと競合しないことを始めたいと思いました。もともと福島県は果樹王国と呼ばれているほどフルーツの栽培の盛んなところですから、果物を加工して付加価値をつけて販売することで、果樹農業も活性化するのではないかと考えました。

こうして始まった「ふくしま逢瀬ワイナリー」は、今まで誰もやっていなかった、郡山市で初めてのワイナリーとなりました。

心に残るエピソード

DOWELL編集部: なるほど、よく分かりました。

「6次産業化」で農産物や地元ブランドの付加価値を高めることを目指していらっしゃる、とのことですが、何か具体的なエピソードはございますでしょうか?

佐々木さん: 最初の2015年のエピソードが心に残っています。当時はまだ郡山市内の農家さんにブドウを植えてもらったばかりで市内でブドウの実が獲れる前でしたので、福島県産のリンゴを使ったスパークリングワインのシードルと、会津若松市産のブドウを使ったロゼのスパークリングワインを造りました。

2016年の3月に商品が完成し、商品発表会にリンゴ農家の方にも来ていただいて、感想をお聞きしました。

その方に「人生で3つの嬉しい瞬間がある。1つは子供が産まれた時、もう1つは孫が産まれた時。そして、このワインができた今この瞬間だよ。ありがとう。」と言われて、その時は造ってよかったなと心からそう思いました。

風評被害の話やご苦労された話を農家さんから聞いていたので、そうした風評を払拭できるかどうかは分からないけど、一助にはなるかもしれないという思いで、一緒に頑張っていたので、その話を聞いた時は本当に嬉しかったですね。

佐々木宏さん

DOWELL編集部: とても素敵なエピソードですね。農家の中には、今までとは違う果物を育てているケースもありますよね? 新しくブドウの栽培を始めるというのは難しいのでしょうか?

佐々木さん: その意味でいえば、初めてブドウを植えたという農家さんがほとんどです。

お米や花、野菜などは作ったことがあっても、ブドウは初めてということでした。

そうした農家さんをサポートするため、郡山市に協力してもらって、ブドウ栽培に詳しい外部のプロに毎月定期的に来てもらって、各農家を回って管理方法を勉強していただくということを今も継続してやっています。

DOWELL編集部: プロの方に毎月来ていただいてアドバイスしてもらえれば、農家の皆さんも安心するでしょうね。

佐々木さん: そうですね。今年で4年目になりますので、少しずつ継続してやっていくことで栽培の技術を益々磨いてもらいたいと思っています。それが原料の質の向上にもつながって、ワインの品質にも繋がっていくのかなと考えています。

魅力的な商品を発信していくことが大事

DOWELL編集部: 福島県は原発の問題があって、これほど時間が経っても風評被害がまだまだ根強いと先ほどお伺いしましたが、果樹農家への支援やさまざまな活動をする中で、そうした風評被害を意識しなくてはならない場面というのはありますか?

佐々木さん: 風評の話というのは、福島県内ではそれほどでもありませんが、県外に出ますと、いまだに話に出ますね。私も郡山市内に住んで4年になり、全く何の問題もなく暮らしていますが、やっぱり県外の人には正確な情報が伝わっていないように思えます。

それでも、福島というこの場所でモノづくりをしている限りは、そうした風評被害には負けずに正確な情報発信をしていくのも私たちの一つの使命なのかなと思います。

自分たちが作っているものは、福島県産の果物を使ったお酒で、もちろん検査もして商品として出しているものです。安全だということをどんどん発信していかなくてはいけないと思っています。

渡辺学さん

渡辺さん: その通りで、私たちはお酒を造っているメーカーなので、魅力的な商品を発信していくことが大事だと思っています。日頃、福島県に限りなく向き合って、それを商品の魅力に変えて発信していくということが、私たちのやるべきことなのかなと考えています。その意味で私たちが使っている原料は福島県産だけに限り、原料の加工をして販売しています。震災から8年という月日が経ち、ビジネスの現場では復興とばかり言ってはいられませんので、純粋に商品の魅力として発信していくこと、それが大事だと思っています。

ですから今、私たちが造った商品を国際コンクールなどに出品していて、中には賞をいただいたものもあって、海外のメディアとかウェブサイトに、「ふくしま逢瀬ワイナリー」の名前が出るようになりました。賞をもらった時、農家さんも「自分たちのやっている果樹農業の取り組みは、それだけの質のいいものである、と世界に認めてもらった!」とすごく喜んでいただいたので、そのようなことも私たちのできる風評被害払拭に向けた取り組みなのではないかなと思っています。

世界で権威あるコンクールで銀賞を受賞

DOWELL編集部: 本当にその通りですね。商品そのものが魅力的であれば、たくさんの人が手に取ってくれるだろうと思います。

そのような魅力的な商品について、ラインナップや味の特徴があればお教えください。

佐々木さん: 逢瀬ワイナリーでは3種類のお酒を造ることができます。1つ目が果実からお酒にする果実酒、いわゆるワインです。2つ目がフルーツを一旦タンクで果実酒にして、それを蒸留して造ることのできるブランデー、3つ目がリキュール、この3つを工場内で製造して販売できる免許を持っています。

今現在商品としてあるのが、2015年からずっと続いているリンゴのスパークリングワイン、シードルと呼ばれているものです。あとは会津産のブドウを使ったロゼのスパークリングワインを毎年12月に販売しています。

商品のラインナップとすると、他にブランデーをベースにして造っているモモとナシとリンゴのリキュールがあります。シードルに関しては、現在販売しているのが2016年産のリンゴで造ったシードルと2017年産のリンゴで造ったシードルです(11月21日に新商品シードル2018を発売)。リンゴも、その年々で味わいが違うということをお客様に伝えたい、という思いがありビンテージとして販売しています。

モモとナシとリンゴのリキュールは、それぞれのブランデーに、それぞれの果汁を加えており、ちょっと甘口でアルコール度数高めの商品です。ロックでもストレートでも飲める、あるいは炭酸などで割って飲んでもらえるタイプのリキュールとして販売しています。

それぞれ香りがよくて、とても好評です。中でもリンゴのリキュールは、今年の7月に、イギリスで開催される世界で最も権威あるお酒のコンクールの1つであるInternational Wine & Spirit Competitionで銀賞を受賞しました。リンゴリキュールの中では、最高得点を受賞する名誉に預かりました。

あとは昨年初めて収穫した郡山産のブドウを使い、今年の3月にブドウのスティルワイン(非発泡性ワイン)を初めて発売しました。

ラベルのデザインは郡山市の開拓の歴史

DOWELL編集部: どんな商品でしょうか?

佐々木さん: 商品名が「ヴァンデオラージュ(Vin de Ollage)」、直訳しますとヴァンがワインで、オラージュというのはローマ字読みをすると「オラゲ」となります。オラゲというのは福島の方言で「おらんち」の意味。つまり「おらんちのワイン」ということなんです。地元の農家さんをはじめ地元の方に、自分のところのワイン、自分たちのブドウで造ったワインだよというメッセージも込めて、そういうネーミングにしたんです。

もう1つ、ラベルのデザインは郡山市の開拓の歴史をイメージして作ってもらいました。

郡山市というのは、明治時代の開拓の時に猪苗代湖(いなわしろこ)から水を引いてくる、そういう開拓の歴史があります。安積疎水と呼ばれている水路なんですが、この水路が郡山市に引かれたことによって郡山市が発展していったという歴史があります。その安積疎水をモチーフにして、ラベルの真ん中に横一線が描かれています。私たちも当時安積疎水を開拓した人々と同じように、果樹農業の新しい未来を切り拓いていきたい、そんな思いを重ね合わせています。

私たちも初めて行った時に気がついたのですが、郡山市というのは風がとても強い土地で、風通しがいいことは、良いブドウを育てる為には大切な条件なんです。それで風をイメージして丸い風車のエンブレムが真ん中にあるのですが、風車の羽根一つ一つはクワのモチーフです。安積疎水を開拓したクワが、今度は農家の人々の手に渡り、福島の果樹農業の未来を形作っていく。そんな意味を込めてのラベルのデザインになっています。

DOWELL編集部: ふくしま逢瀬ワイナリーのロゴについてもご説明願えますか?

渡辺さん: 上からモモ、ナシ、リンゴ、ブドウを表していて、真ん中の空いている穴が猪苗代湖をイメージしていて、福島県の形をしています。周りがボヤボヤッとしているのは、果物が発酵している様子です。

ワイナリーというだけあって、もちろんこれからもブドウのワインを造っていきますし、農家さんたちに新しくワイン用のブドウを植栽してもらっているので、ワインは重要ですが、モモ、ナシ、リンゴというもともと福島県で生産が盛んな果物の魅力もどんどん伝えていきたい、というのが設立の精神の中にあります。それぞれの果物は、生で食べてもおいしい品質のものを使ってお酒を造っているというのが、逢瀬ワイナリーの製造のすごく大きな特徴の1つになっています。

佐々木さん: 製造現場ですと、ものすごく緻密な温度管理などにこだわっていて、低温でお酒を発酵させるという手間のかかることをやっています。

佐々木宏さん

Do well by doing good.

DOWELL編集部: お話を聞いていて、とてもおいしそうなので飲んでみたくなりました。

それでは最後に、DOWELLの読者に何かメッセージがあればお願いします。

「Do well by doing good.」という英語の言葉がありまして、これは「いいことをして、世界と社会をよくしていこう」というサイクルを指す意味となるのですが、DOWELLマガジンではこの言葉を大切にしています。

佐々木さん、渡辺さんにとっての「世界と社会をよくするいいこと」とは何でしょうか?

渡辺学さん

渡辺さん: 今、自分たちがやっている仕事や取り組みが社会とどう繋がっているのかを意識していく中で、自分にとってのいいことが定義づけられていくのだろうと思います。

今、私たちが取り組んでいる「ふくしま逢瀬ワイナリー」について言えば、福島県郡山市の方たちと一生懸命に取り組んでいくことで、果樹農業の魅力を余すところなくお酒に変えて販売しています。その私たちの取り組みをより多くの方々に知ってもらったり、農家さんたちの頑張りを知ってもらって、お客さんが私たちが造ったお酒をたくさん消費してくれれば、福島の果樹農業がどんどん元気になっていきます。

そんな循環ができればいいなと考えていて、そのためにできることの最善を尽くすことが今の使命だと思っていますので、それは広報活動を考えるとか、製造に関していえば、最大限の力を尽くして可能な限りおいしいものを作るとか、そういったことがいいこと、すなわち福島県の果樹農業を元気にすることに繋がっていくのではないかと考えています。

佐々木宏さん

佐々木さん: お酒って、皆さんご存じのように嗜好品なので、どうしても好みが出てくる世界だと思うのです。その中で自分にできることといったら、おいしいお酒を造って、それを飲んだ人においしいといってもらうこと。とてもシンプルなんですけど、それで和気あいあいと楽しくなってもらうことが一番なんじゃないかなと考えています。

そうやって少しでも幸せな気持ちになってもらえるのであれば、お酒を造っているものとしてそれに勝る喜びはありません。初めて飲んだ時に、これ、おいしいねっていっていただければ、自分の励みになるし、農家の皆さんの励みにもなると思うんです。これが私にとっての「いいことをして、世界と社会をよくしていこう」ということですね。

DOWELL編集部: 今日はどうもありかとうございました。

佐々木さん・渡辺さん: こちらこそありがとうございました。

いいことをして、この世界をよくしていこう。~ DOWELL(ドゥーウェル)~
www.dowellmag.com

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