今の私に影響を与えた2つの経験 【1.決して恵んではいけない】
DOWELL編集部: そこでどんなことを感じて育ってこられたのでしょうか?
佐伯さん: 今の私の仕事観にかなり大きく影響していると思える経験が2つあります。
1つはその当時、父はメキシコで働いていましたので、家族でよくメキシコに行く機会がありました。その時、私と同世代であったり、まだ歩けるようになって間もない子供が物乞いをしていて、特に私たち日本人とか外国人が乗っている車を見ると集まってくるんです。そんな姿が印象的で、今も心に強く残っています。
その時は私自身もまだ幼くて、そんなことが起こっている背景が分からなくて、ただ単純に可哀想だなと思っただけでした。そして、その可哀想だという気持ちから、自分もお金をあげたほうがいいのかなと思ったりしたこともありましたが、その時、父の同僚のメキシコ人に「決して恵んではいけませんよ」と言われたのです。
DOWELL編集部: それはどうしてですか?
佐伯さん: 恵んでしまうと、彼らは一生、この生活をし続けることになるからです。父の同僚のメキシコ人は「彼らの親が、子供を使えばお金が稼げるということを知ってしまうと、彼らは学校にも行けなくなるし、このままの生活がずっと続くことになる。そして、その子供たちが大人になった時、自分の子供にも同じことをさせていくんだ」と言うのです。
もちろん短期的な緊急支援は必要だと思いますが、私はこのことから、何か社会の仕組みや経済そのものが変わっていかないと、この状況はいつまで経っても変わっていかないということを学びました。
DOWELL編集部: なるほど、それは貴重なご経験ですね。それは日本にいたのでは決して学ぶことのできないことだと思います。