お茶の水女子大学附属高校で家庭科を担当している葭内(よしうち)ありさ先生は、衣食住に留まらず生活に関わる広い分野で、「エシカルファッション」の教育実践など独自の手法を用いて、生徒たちの「エシカル・マインド」の醸成に努めています。
今回はその葭内先生に、教育に懸ける想いやこれからの夢などを伺いました。
お茶の水女子大学附属高校で家庭科を担当している葭内(よしうち)ありさ先生は、衣食住に留まらず生活に関わる広い分野で、「エシカルファッション」の教育実践など独自の手法を用いて、生徒たちの「エシカル・マインド」の醸成に努めています。
今回はその葭内先生に、教育に懸ける想いやこれからの夢などを伺いました。
DOWELL編集部: 今日はよろしくお願いします。葭内先生は高校の家庭科の授業の中で「エシカル」について教えていらっしゃいますが、日本の高校では珍しい例なのではないかと思います。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
葭内先生: 皆さんは「家庭科」という教科について、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 人によっては、家庭科というと、衣食住、特にお料理やお裁縫を習う教科というイメージしか湧かないかもしれませんが、扱う範囲がとても広い教科なんです。
例えば環境や高齢者に関する題材も家庭科で扱っていますし、私が取組んでいるエシカルも「消費」という分野の中で学びます。
DOWELL編集部: 家事について学ぶ教科というよりも「生活に必要なこと全般」を勉強する教科になっているんですね。
葭内先生: 仰る通りです。ですから、家庭科の教師は、好奇心が旺盛で、世の中に対して幅広く関心を持ち、自分が「これは大切だ」と思ったことは積極的に生徒に教えていく姿勢が必要かと思います。
DOWELL編集部: 「家庭科」という教科の意義がよくわかります。では先生は、どのようなタイミングでエシカルと出会ったのでしょう?
葭内先生: 「エシカル」という言葉自体には、専門書の小さなコラムで出会いました。ただ、フェアトレードや児童労働といったエシカルに関係する事柄には早い時期から関心がありました。
実は、私が中学生のころ、私の家は、あるNGOのサポーターとしてインドの貧困地区の男の子の里親になっていました。それで私はその男の子と英語で文通をしたり、高校生の時には文化祭で環境問題をテーマにした展示をしたり、また大学生の時は美術館で障がい者アートのボランティアをさせていただいたりしていました。社会貢献や環境問題に関心があったんですね。ですから、エシカル的な考え方は自然と受け入れていましたし、その考え方を生徒たちにも伝えていきたいと思っていました。もっとも、言葉だけの授業では少し物足りないので、教える内容を工夫することにしたのです。
DOWELL編集部: 確かに言葉で伝えても、どこまでわかってもらえるか、という点はありそうですね。どのような工夫をされたのでしょうか。
葭内先生: 実践です。例えば、自分たちの食べるものはどうやってできるのか、を一から体験する授業を行いました。農家から石臼を借りてきて、自分たちで育てた小麦を挽いて小麦粉を作り、その小麦粉でケーキを焼いてみる、という授業です。ケーキとは何でできているのかを「農」のレベルから体感してもらおうと思ったんですね。
その様な授業以外には、児童労働の問題やフェアトレードなどに関して生徒が考え、発表する形式を取り入れつつ教えていました。
それで2011年に、たまたま開いた専門書のコラムで「エシカル」という言葉を初めて目にしたんです。そして、ああ、自分がこれまで教育の現場でやってきたことは「エシカル」というものに全部繋がると思いました。これが、私とエシカルの出会いです。
DOWELL編集部: つまり、エシカルという言葉を知る前に、すでにエシカルに触れていたということですね。そしてその後、本格的にエシカルを授業に取り入れていったのですか?
葭内先生: そうです。そして丁度その頃、エシカルについて全国の教育関係者に知っていただく機会にも恵まれました。
お茶の水女子大学附属高校には、教育に関する研究機関としての役割もあります。その為、活動の一つに「公開教育研究会」という全国の教育関係者に授業をご覧いただく公開授業があります。そして2011年は、研究発表をする教科の一つが家庭科でした。どの様な授業をつくろうかと調べていた時に、先程お話しした「エシカル」を専門書で目にしました。
そこで「今まで私がやって来たことがエシカルということなら、エシカル・ファッションを中心とした授業を提案しよう。そして、もっと多くの先生方にエシカルを知ってもらおう」と考えたのです。やはり、初めてエシカルという言葉を聞くのかもしれない全国の先生にとっては、エシカルを言葉で説明するだけではなく、実際に目に見える「服」を題材にして、生徒が動いたり考えたりするほうが伝わりやすいですよね。
DOWELL編集部: 葭内先生にとっては、まさにグッド・タイミングだったのですね。生徒たちにもファッションを通じてエシカルを教えることで、より深く、興味を持って理解してもらえると思います。以前、リー・ジャパン株式会社や子どもを児童労働から守るNGO「ACE」などが実行委員会となって開催されたエシカル・ファッション・カレッジで、葭内先生が公開授業を行われていましたが、その時の授業に近いイメージでしょうか?
葭内先生: はい、その通りです。結果的に、研究会での授業は先生方にとても好評で、エシカルについても理解していただけたと思います。私も授業の準備をするのが楽しかったですし、生徒たちも、エシカルという具体的な視点を持って、自分たちの暮らしにとって大切なことは何かを学ぶことができたと思います。
(後編に続く)
いいことをして、この世界をよくしていこう。~ DOWELL(ドゥーウェル)~
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