ブラジル北部の「トメアスー」地域で、“森をつくる農業”といわれる「アグロフォレストリー農法」によって生産される高品質のカカオ。そのカカオを使って、株式会社 明治では『meijiアグロフォレストリー チョコレート』という商品をつくっています。では、「Do well by doing good.」活動のひとつとも言えるこの取組みから生まれたチョコレートは一般的なチョコレートとは何が違うのでしょうか。そしてまた、世界にどのような「よいこと」をもたらしているのでしょうか。前編に続き、株式会社 明治のカカオ開発部でチョコレートの開発にあたる、佐久間悠介(さくま・ゆうすけ)さんにお話をお伺いしました。
トメアスーでのカカオプロジェクトがスタート
DOWELL編集部: 森の中で農業を行うアグロフォレストリー農法。「言うは易く行うは難し」で、実践するのは大変だと思いますが、どのような方が実現されたのでしょうか?
佐久間さん: 今は離職されていますが、トメアスー農協の理事長をされていたコナガノさん、日本語表記だと“小長野”さんという方がリーダーをされていました。当初、複数の作物を組み合わせたのは別の方だったそうですが、現在の巧みなシステムにまで昇華させたのは、コナガノさんなんです。
コナガノさんは生まれてすぐにブラジルに渡り、ずっと農業を営んできた方ですが、とても研究熱心で物腰の柔らかい素敵な人物です。トメアスーのみならず、ブラジルの他州や近隣の国からも研修生を受け入れて、トメアスー流のアグロフォレストリー農法の啓蒙に尽力されていたんですよ。
DOWELL編集部: アグロフォレストリー農法でつくられたカカオと、従来の農法でつくられたカカオでは、品質に違いが出るのでしょうか?
佐久間さん: チョコレートメーカーでは、カカオの品質評価はできあがったチョコレートで行います。植えられている品種、土地の状況など、チョコレートの味には、カカオに関する複数の要素が影響します。また実は、チョコレートをつくるときにはカカオを発酵させるので、発酵方法によって味も変化するんですよ。さらにチョコレートに仕立てるまで、どんな温度でローストするか、砂糖をどれぐらい入れるか――そういった配合も影響してきます。
ですから、農法の違いによるカカオの品質を比べようと思ったら、純粋に同じ土地、同じ品種、同じ発酵方法、同じ配合で、アグロフォレストリー農法と従来農法のカカオを比較する必要があるのですが、さすがに前例がありません。ただ、これまでブラジルの他の産地のカカオも試してきましたが、少なくとも私たち明治が購入しているトメアスーのカカオの品質は高く、かつ安定しています。チョコレートの製造において悪い影響はほぼなく、明らかによい影響が出ていると考えています。
DOWELL編集部: ところで、チョコレートの製造過程でカカオを発酵させるというお話がありましたが、それは現地で発酵させてから日本に届くのですか? やや横道にそれてしまいますが、カカオの収穫から出荷に至る工程を教えていただけますか。
佐久間さん: カカオは生の果物として木になっています。この実はカカオポッドというのですが、割ると中に白い果肉と30~50個の種が入っていて、チョコレートになるのは、この種にあたる部分です。
収穫して実を割ったら果肉と種を取り出して発酵させます。果肉の糖分に天然の微生物が付いて発酵が進むんです。発酵後に天日乾燥させるまでが現地の作業で、その後カカオ豆だけを日本に運び、工場でチョコレートに加工するという流れになります。
DOWELL編集部: カカオの実をそのまま日本に送るというわけではないのですね。
2009年に現地に行かれた後、トメアスーのカカオを購入するという話はトントン拍子で進んだのでしょうか。
佐久間さん: さすがに即決ということにはなりませんでしたが、コナガノさんはじめ、トメアスーの農家の皆さんは、考え方も、またカカオの品質も素晴らしい。ですから、私たちも本腰を入れてやっていこうという話になりました。
ただ当時つくられていたカカオの品質が100%だったかというと、そうではありませんでした。明治が求めるものとは少し方向性に差があったのです。でもカカオのポテンシャルは非常に高い。そこで、その差を解消する研究を共同で進めながら、できたカカオは私たちが買いとるという形で2009年内にプロジェクトが決まり、スタートしました。
DOWELL編集部: 明治が求めるカカオにするためにどのような研究を行ったのですか?
佐久間さん: 明治が理想とするカカオになるための最も大切なポイントは、現地で行う発酵です。豆の大きさや、異物が混ざらないようにするといった品質規格面での取組みもありますが、私たちはまず、現地で無数のパターンの発酵法を試してカカオサンプルをつくり、その中で、現地のカカオのポテンシャルを最大に引き出す発酵法を見出します。そしてこの発酵法を“明治法”として採用するのですが、トメアスーでも同様に、この“明治法”で発酵いただくことを理解して受け入れてもらうことから始めました。
アマゾンの森の復活を手助けするチョコレートに
DOWELL編集部: 明治法で発酵させたカカオが素晴らしいということを、どのようにしてトメアスーの農家の方々に伝えたのでしょう?
佐久間さん: トメアスーのカカオを使って、従来の発酵法と明治法によって2種類のチョコレートのサンプルをつくり、農家の皆さんに食べ比べてもらったんです。実は、カカオの産地は非常に暑いので、あまりチョコレートは食べないんですよ。農家の皆さんは自分のカカオがどんな製品になっているのかを知らないので、新鮮な体験だったようです。
そのような、固形のチョコレートを普段はあまり食べない彼らですが、それでも、明らかに違いは伝わりました。結果、こちらの意図を理解して、探求心を持ってモチベーション高く改善に取り組んでくれました。その姿はまさに勤勉な日本人そのものです。この方たちと仕事ができて本当によかったです!
DOWELL編集部: 佐久間さんは、当初からトメアスーが日系人のコミュニティーというところに魅力を感じていらっしゃったというお話ですから、いっそう思うところがあったのではないでしょうか。
佐久間さん: そうですね。初めて訪れた時には、アマゾンの奥地に、突然、日本の田舎の風景が現れたようで、なぜか懐かしく感じたのを思い出します。しかも南米なのに、夏には盆踊りやカラオケ大会が催されるんですよ。カカオが日本で製品化された時には「まるで故郷に錦を飾ったようだ」としみじみと喜んでくれたトメアスーのみんなの表情が、今も脳裏に浮かびます。
DOWELL編集部: じんとくるエピソードですね。そのようにして誕生したのが、トメアスーのカカオだけでつくった『meijiアグロフォレストリー チョコレート』なのですね。
佐久間さん: 森をつくる農法でカカオをつくったら美味しいチョコレートになって、アマゾンの生態系の再生にも寄与するというのは、素晴らしいことじゃないですか。美味しく食べてもらって、世の中にもいい。パッケージに“トメアスー”の文字が入ることは、生産者の励みにもなります。
私たちはチョコレートを大量に生産しているので、カカオ農家から、安定的にたくさんのカカオを供給してもらう必要があります。カカオ農家からすれば、つくったカカオは適正な金額で買い取られるので、安心して生産に取組むことができます。このようなプロセスによって、私たちはお客様に適正価格で商品を購入してもらい、美味しく食べていただける。結果としてアマゾンの森の復活の手助けもできる。この仲介的な役割を私たちが果たし続けていくことが大切だと考えています。
DOWELL編集部: ちょっと贅沢だけど、一般消費者にも普通に手の届く適正価格。そして何より美味しく、森の復活の手助けにもなる――食のよいサイクルをつくる価値のある取り組みで、とても魅力にあふれたチョコレートです。
サスティナビリティへの取組みで、新しい試みも
DOWELL編集部: 「Do well by doing good.」活動(※注)について、どのように思われますか?
佐久間さん: これまで「世の中でいいことをする」ということには、余裕のある人が施しをするということもありました。でもそれでは、お金を出す企業や個人が苦しくなったら、その活動は止まってしまいます。そうではなく、続けていくことが大切なので、ちゃんと経済活動にならないといけないですよね。そういう観点で「Do well by doing good.」活動にはとても共感できます。
たとえば今回のトメアスーとの関わり方にしても、自分たちがいいことをしているという自己満足で終わってはいけません。いかに現地にノウハウなどを残し、最終的には現地が独り立ちできるかが大切だと思います。
DOWELL編集部: おっしゃる通り、「世の中でいいことをする」活動は、寄付や施しではなく、実業として成立しないと継続することはできませんよね。このような取組みをしているimperfectとのコラボレーションを行うと伺いました。
佐久間さん: 弊社がサスティナビリティの新しいビジョンを打ち出していこうとしていたところ、「Do well by doing good.」活動に取り組むimperfect株式会社の取り組みを知って、目指すところがとても近いと感じたのです。プロダクトがチョコレートで共通しているところにも親近感を覚えました。そこでお互いの取組みをお客様に知ってもらえるような企画を考えることとなりました。
私たちのような立場からすると、サスティナビリティ関連のメッセージは、一部の感度の高い人たちには伝わるけれど、なかなか広がっていかないという悩みが存在します。そこをコラボレーションすることで解決していければと思っています。一緒に情報発信していければ情報の総量が増えますし、お互いの顧客層も異なると思うので、広がりも期待できるはずです。頭でっかちに考えるのではなくて「世の中にいいことをするのは、美味しいチョコレートを食べるだけでいいんだよ」というメッセージを、より多くの人々に伝えていけるようにimperfectとがんばっていきたいですね。
「meiji アグロフォレストリー」という特徴的な商品だけでなく、他にもメイジ・カカオ・サポートやFSC認証の紙の使用など様々な活動を行う株式会社明治。このように日本を代表する企業が、「いいことをして世界と社会をよくしていこう」という「Do well by doing good.」活動とコラボレーションすることは、とても価値あることではないでしょうか。
このような取組みをDOWELL magazineではこれからもご紹介していきたいと思います。
(※注)「いいことをして世界と社会をよくしていこう。」という活動。2019年7月4日にオープンした日本初のウェルフードマーケット&カフェ「imperfect表参道」では、「Do well by doing good.活動」へ参加できる仕組みが導入されている。
いいことをして、この世界をよくしていこう。~ DOWELL(ドゥーウェル)~
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