今回お話を伺ったのは、“環境アクティビスト”の清水イアンさん。人類の発展がサステナブルではなかった結果として生じている地球温暖化などの環境問題について取組まれています。現在の私たちの豊かな暮らしは、環境破壊のもとで成り立っているという事実と向き合うことの大切さ。そして改善に向けてどのようなアクションを起こしていけばよいのかなどについて、話してくださいました。
環境問題をもっと身近にするために
DOWELL編集部: 清水さんは地球の環境問題について広く世の中に伝え、保全・再生運動を牽引する“環境アクティビスト”として活動されていますが、この活動を始めた経緯を教えてください。
清水さん: 本格的に環境問題に関わるようになったのは大学生(国際基督教大学)の時です。世界180カ国以上で活動している、市民の力で地球温暖化の解決を目指す『350.org』という国際環境NGOがあるのですが、僕が3年生のとき、日本でもこの団体の立ち上げが決まりました。僕はそこにインターンとして参加して、正職員として勤めるようになったのです。
『350.org』では、地球に優しい金融機関を選ぼうというダイベストメント(*)のキャンペーンを行いました。200以上の案件に関わって、少なくとも5億円以上の資金をクリーンな銀行などに移すことができたんです。この金額は銀行にとっては些細なものですが、金融機関の方々が僕たちの話を聞いてくれる機会が増えるきっかけとなったのは、大きな成果だったと思います。ちなみに、このキャンペーンは今も継続しています。
その後、環境問題を日本の人々にもっと知ってもらうために“話す”という活動に力を入れるようになりました。1年半ほど前に“Let’s Talk About Environment!(環境について話そう!)”をテーマに活動するオープンコミュニティ『Spiral Club』を立ち上げたり、ラジオやイベントなどで話す機会を意識的に増やすようにしていますね。
そして最近スタートしたのが、森林の保全と再生に関するプロジェクト『weMORI』です。世界中の森林を保全・再生するプロジェクトに、少額からワンタップで直接寄付することができるアプリを開発しています。
DOWELL編集部: どれも素晴らしい取組みです。大学生の時に環境問題を強く意識されるようになったとのことですが、そのきっかけは何だったのでしょう。
清水さん: 僕にはイギリス人の父と日本人の母がいますが、両親が自然に触れることの大切さを教えてくれたのです。子どもの頃からボルネオ島の森や沖縄の海を家族で旅をしたりと、自然に接する機会に恵まれていました。特に、後の人生に大きな影響を与えたのは、高校生の時に、母に勧められて、宮古島のダイビングショップに住み込みで働いたことですね。
宮古島では毎日海に潜って数多くの生き物に触れ、美しい自然に抱かれながら過ごしていたのですが、そんなある日、海の中を案内していたお客さんが、何気なくサンゴを踏んでしまったんです。その瞬間、サンゴは折れて砕けてしまいました。サンゴが成長するには、気の遠くなるほどの歳月が必要です。そんな時間をかけて育まれたサンゴでも、一瞬にして破壊され死んでしまう。大好きな自然、守りたい自然が、いとも簡単に失われてしまうことに恐怖を覚えました。
環境に関心を持った発端は、そのような感情的な出来事でしたが、大学生になって人類の発展の歴史がどれほど環境破壊を伴ってきたのかを学び、「今の世の中は、サステナブルではないんだ」という問題意識を抱くようになったんです。それまでは「世の中には賢い人がたくさんいて、きっと世界をよい方向に動かしてくれているに違いない」と思っていたのが、「どうも、信じていたようには、世の中はよい方向に進んでいない」ことに気づいたのです。そして大学2年生の時には就職活動はせず、ずっと環境問題に取組んでいこうと決めました。
DOWELL編集部: 近年の取組みでは、「話す」「伝える」ことに、より力を入れていますよね。環境問題は、これまであまり意識をしてこなかった人にはなかなか難しいテーマなので、そのような人たちに話を聞いてもらうには工夫が必要ではないでしょうか。
清水さん: 実は僕自身、『350.org』に参加した当初は戸惑いを感じていました。というのも、表現は悪いのですが、メンバー間で語られるのは難しい話が多く、ほかのみんなが知らない専門的な言葉や知識をどれだけ持っているかという背比べをしているように思えたんです。僕は、環境問題に関心がある人がまだまだ少ないにもかかわらず、内輪でまとまっている場合ではない、もっと広くみんなが親しみやすく触れやすい状況を作っていかないといけないと考えたのです。
それで『350.org』のサイトは、興味をひきやすいデザインにこだわり、専門用語はわかりやすい言葉にできるだけ置き換えるようにしました。イベントなどでは誰にでもフレンドリーに接して、ボランティアに参加しやすい雰囲気を作ったり……。なるべくフラットに発信することで、一般の方々が環境問題に接するハードルを下げていきたいと考えています。
DOWELL編集部: そうした試みのひとつが、ご自身が顔を青く塗って扮装された“アースマン”だったのでしょうか?
清水さん: 懐かしい……。アースマンのデビューは2015年のパリ協定直前のイベントでした。より多くの方々に、地球環境の話題に触れやすい状況を作りたいと思って、わざわざコスチュームも用意してやってみたんですよ。1000人ぐらいとハグしましたね。 実はアースマンは志を同じくする学生たちに受け継がれていて、現在で17代目になっています。こうしたユーモラスなアプローチも時には必要だと思いますよ。新型コロナウイルス騒動が収束したら、またやってみようかな(笑)。
環境への取組みにおける日本の問題点
DOWELL編集部: 日本人は環境問題への意識が低いとよく言われます。では実際にCO2を排出している先進国の中でも低いのでしょうか? また、もしそうだとしたら、どんなところに問題があるとお考えですか?
清水さん: 残念ながら、やはり低いと言わざるを得ないでしょう。日本では環境問題について「議論が活発でない」とか、「対策がなされていない」という話題になると、すぐに、その責任はどこにあるのか、という責任論に話がいきます。「メディアが役割を果たしていない」「教育で取り上げることが少ない」「政治のアプローチが弱い」とか、いわゆる犯人捜しの論調になってしまうわけです。
ただ、そのような論調になることは決してよいことではないと感じつつも、一方では悲しいことに、指摘されていることは全部正しいと思っているのも事実です。
ではどうしたらいいのか。第一の解決策として、強いリーダーシップの出現を望みたいですね。例えばアメリカ合衆国の元副大統領アル・ゴアさん。環境活動家として2007年にノーベル平和賞を受賞されているなど、政治家を代表して熱心に取組まれています。このレベルには及ばないとしても、環境問題において強いメッセージを出せる政治家は、今の日本には見当たらないのが悲しいですね。でもそうした中で、昨年9月に就任された小泉進次郎環境大臣は、献身的な印象です。
DOWELL編集部: そうなのですね。就任直後、国連の気候行動サミットに出席した際のニュースが報道されて以降、あまり報じられていないようにも思います。
清水さん: あの会合において、日本における石炭の使用に関し明確な説明がなされなかったことは残念に思います。ただそれ以降、発言だけに限ってみればですが、大臣はパリ協定遵守のために熱心に発信されていると好意的に受け止めています。まだ具体的な成果があがっていないところも確かに課題ではありますが、後はどれだけ具体的な数字に繋げられるかでしょう。
でもそれ以降については、発言だけに限ってみればですが、大臣はパリ協定遵守のために熱心に発信されていると好意的に受け止めています。まだ具体的な成果があがっていないところも確かに課題ではありますが、後はどれだけ具体的な数字に繋げられるかでしょう。
DOWELL編集部: これからの小泉環境大臣に期待していきたいところを聞かせてください。
清水さん: 小泉大臣は、変化を生むことができる影響力と発信力を持ち合わせている方です。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などが発表する、科学的根拠に基づいた政策を導入してほしいですね。この点に関してはご自身もかなり意気込んでおられるようなので、行動が伴ってくることがポイントだと考えます。繰り返しますが、課題はたくさんありますが、発信を続けていって大臣の務めを果たしていただきたいですね。
(後編に続く)
環境問題への意識が低いと言われる日本。その解決策には、強いリーダーの登場以外にどのようなことがあるのでしょうか。後編で、さらにお話を伺っていきます。
*「ダイベストメント」環境に悪影響を与える化石燃料などを扱う企業から、投資を引き上げたり、取引を中止すること
いいことをして、この世界をよくしていこう。~ DOWELL(ドゥーウェル)~
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