17歳でニューヨークコレクションにデビュー。以降、世界の第一線でトップモデルとして活躍されてきた冨永愛さん。2019年には消費者庁からの要請を受け、『エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー』に就任するなど、サステナビリティ活動にも積極的に取り組んでいます。前編に引き続き、後編では、海外での活動やファッション業界におけるエシカル、サステナビリティについてお話いただきます。
国際協力NGOの活動で知ったアフリカの現実
DOWELL編集部: 冨永さんは、2011年から公益財団法人『ジョイセフ』のアンバサダーも務められていますよね。こちらでは、どのような活動をされているのでしょうか。
冨永さん: ジョイセフは、女性のいのちと健康を守るために活動している日本生まれの国際協力NGOです。国連、国際機関、現地NGOや地域住民と連携し、アジアやアフリカで、保健分野の人材養成、物資援助などのプロジェクトを通して、生活向上のための支援を行っています。私の活動のひとつとしては、ジョイセフが支援するアフリカのザンビアとタンザニアを訪ね、妊婦さんの環境や出産事情などをレポートしてきたことなどがあります。
DOWELL編集部: やはりアフリカのお産の環境は、日本とはまったく違うのでしょうか。
冨永さん: 悲しいですがその通りです。現地で目にした光景があまりにも劣悪で、愕然としてしまいました。分娩台や清潔な医療器具などはなく、自宅の土間で錆びたハサミを使って、というのが当たり前。赤ちゃんを取り上げるのも、専門的なお産の知識のない妊婦の母親だったり……。だから、出産はまさに命がけです。実際に死亡率も高いので、お産をするにあたって、家族と今生の別れをしておく妊婦も少なくありません。
ジョイセフでは、現地で、お産には危険が伴うことを教育したり、助産婦などの医療スタッフを育てたりしています。また妊婦が遠い病院に向かう途中でお産したり、亡くなったりすることを防ぐため「マタニティハウス」の設営などにも力をいれています。
ファッション業界でも広がるSDGs
DOWELL編集部: 冨永さんは、さまざまなサステナブルな活動を通じて、世界の現状をご覧になってきたと思います。では、冨永さんの本業ともいえる、ファッション業界では、エシカルやSDGsに関してどのような動きになっているのか、その潮流についてお聞かせください。
冨永さん: どんどん浸透していると思います。
今年、10年ぶりにパリコレに復帰しましたが、モデルの置かれる環境が大きく改善され、労働環境も守られるようになっていました。真夜中に呼び出されることも少なくなってきましたし、16歳以下のモデルには必ず保護者がつくように定められています。オーディションやフィッティングの会場には飲み物や食事も用意されるようになっていて、改善が見られたことは本当によかったと思います。
エシカルやサステナビリティへの意識も高まっていて、製造の現場でも実践されています。例えば、私が今日着ているのはハンガリーの『NANUSHKA(ナヌーシュカ)』というブランドのもの。動物性の成分を使用していないヴィーガンレザーやオーガニックコットンといった、地球環境に優しい素材を使用しているのが特徴です。
アクセサリーはストックホルムのジュエリーブランド『All Blues(オール ブルース)』で、こちらは地元で調達されたリサイクル金属を使っているんですよ。
DOWELL編集部: ブランドものを長期にわたって使い続けることも、廃棄物を出さないという点で、実はサステナブルな選択だと思いますが、いかがでしょうか。
冨永さん: そう思います。例えば私は、『エルメス』の『バーキン』を愛用しています。高価なバッグですが、きちんとお手入れをしていれば一生使うことができます。次世代でも問題なく利用できるほど、しっかりと作られているんです。数多くのバッグを持つことよりも、ひとつのバッグをずっと使い続けることも、資源の節約に貢献できることだと思います。
あと日本の着物は素晴らしいですね。仕立て直しをして子孫に受け継がれ、最後はおしめや雑巾となって、その寿命を全うする。そうしてこの国には古くからエシカル消費的な考えが受け継がれてきた。そういう文化が根源にある日本にはエシカルの考え方は潜在的に浸透しやすいと希望を持っています。
身近なことからエシカル消費を始めませんか
DOWELL編集部: 私たちが提唱している「Do well by doing good. 活動」は、「いいことをして世界と社会をよくしていこう」という活動ですが、冨永さんのお話は、この活動と親和性の高いものだと感じました。今回の記事を読んだ方の中には、これを機にエシカルな消費を始めようと考える人も多いと思いますが、どのようなことから始めたらよいか、アドバイスをいただけるでしょうか。
冨永さん: まずは、マイバッグやマイボトルといった、手軽に始められるものからやってみてはいかがでしょう。一人ひとりが、小さなことでも意識して実践すると、やがて大きな結果につながります。最初からパーフェクトにやることは難しいですから、取り組みやすいことからスタートして、ゆっくりと範囲を広げていけばいいと思います。
DOWELL編集部: ありがとうございます。冨永さんの今後の活動についてお聞かせください。
冨永さん: やはりモデルが中心になることは間違いないです。でも昨年反響の大きかったドラマに出させていただいて感じたのですが、女優というお仕事も魅力的ですね。もちろん、エシカル、ジョイセフの大使の活動にもこれまで以上に関わっていきたい――かなり欲張りかな(笑)。でも一つひとつのお仕事に丁寧に取り組んで、どれも質の高い結果につなげていきたいです。
DOWELL編集部: 『DOWELL Magazine』の今月のテーマが「シゴトでいいこと!アソビでいいこと!」です。最後に、冨永さんの「アソビでいいこと!」をお願いします。
冨永さん: ご多分にもれず、私もコロナ禍でステイホームを余儀なくされてしまいました。でもその「おうち時間」を活かして、これまでできなかったことを楽しんでいます。例えばパンを焼くなど、家で料理することも増えました。
オーガニックの食材を使うことが多いので、農薬を使わない生産者の応援になり、土壌の改善にもつながります。“アソビ”がSDGsの達成に貢献できるっていいですよね。ぜひ、読者の皆さんも楽しみながらでいいので、地球によい消費を意識していただければ嬉しいです。
<プロフィール>
冨永愛(とみなが・あい)
17歳で、ニューヨーク・コレクションにデビュー。以降、トップモデルとしての活躍に加え、ドラマやイベントなどへの出演多数。環境や社会問題にも関心が高く、2011年には公益社団法人「ジョイセフ」のアンバサダーに就任。さらに2019年から消費者庁の「エシカルライフスタイルSDGsアンバサダー」も務めている。近著に、自分のリアルな「美のマイルール」を公開した「冨永愛 美の法則」(ダイヤモンド社)がある。
いいことをして、この世界をよくしていこう。~ DOWELL(ドゥーウェル)~
www.dowellmag.com