(第1話)世界のお母さんのおやつレシピ/門倉多仁亜 【連載】あなたの「おいしい」が、だれかの「うれしい」に
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(第1話)世界のお母さんのおやつレシピ/門倉多仁亜

初めまして。このたび、6回の連載を担当することになりました、門倉多仁亜(かどくら・たにあ)と言います。少しだけ自己紹介をさせてください。私は日本人の父とドイツ人の母の間に日本で生まれました。家の事情で子供の頃にドイツやアメリカに暮らす時期もありました。色々な国で様々な人々の暮らし方を垣間見る中で、うちってみんなの家と違うな~と、子供ながらに気づかされる場面がたくさんありました。悩むこともありましたが、でもそれよりも大切なことを教えられました。考え方はひとつでないということ。そして正解もひとつではないということ。そのことに気づけば、心が解放されますよ! 自分で考えて、自分で決める。みんながそうしていくことで世界はよくなっていくのではないでしょうか? この連載では、私が文化の間を行き来することで見えた小さな気づきをシェアできたら嬉しく思います。

母の手作りおやつ

「お母さんのおやつ」と聞いて思い出すことは何でしょう。わたしは「おやつ」そのものよりも、まず思い出すのは「おやつのルール」です。「ひとり1日、クッキーは3枚まで」

こどもの頃には、こんな母が決めた「おやつのルール」がありました。先日そんなことを弟に話をしていて知ったことですが、妹はこのおやつのルールを守っていなかったそうです。

思えば、ドイツ人であるわたしの母はルールを守っているかどうかのチェックはしていませんでした。これは自己責任という考えだと思うのですが、ドイツらしいなぁと思います。

社会にはさまざまなルールがあります。それらは一人ひとりを守るために考えられ、そしてつくられたもの。ですからそのことを各自が認識して行動することが大事であって、それはこどもであっても同様ということでしょう。その日のクッキーを3枚食べた後に、母に「もう一枚食べてもいい?」と聞くと答えはいつも同じ。「あなたはどう思う?」でした。

では、実際の「おやつ」はどんなものだったか? お話ししたいと思います。普段わたしたちのために買い置いてくれていたおかしはゴマがはいった棒状のビスケットや香りのよいココナッツのサブレのようなものでした。甘いだけのお菓子や着色された華やかなお菓子ではなく、栄養を補ってくれるようなものを選んでくれていたのだと思います。

また、母に時間の余裕のある時にはおやつを手作りしてくれました。フレッシュなチーズを使ったさっぱりとしたドイツ風チーズケーキ、季節のフルーツをふんだんに盛り込んだパウンドケーキ……。

母の手作りおやつの思い出はたくさんありますが、そのなかでもわたしがいちばんうれしくたのしみにしていたのは「Eierkuchen(アイヤークーヘン)」です。直訳すると「たまごケーキ」という意味になりますね。たまごと牛乳を使った液体状の生地をフライパンに流して薄く焼き上げたものなのですが、そう、クレープにとてもよく似ています。

おやつがEierkuchenの日はうれしくてたまりません。ダイニングテーブルの中央に置かれた大きいディナープレートの上には母が前もって焼き上げておいてくれた生地(30枚くらい!)が積み重ねてあり、そのまわりにはEierkuchenにのせるトッピングが入った器が幾つも並びます。

トッピングはというと、バナナやイチゴなどのフレッシュフルーツ、キャラメルソースやヌテラやジャム、ホイップクリーム、チョコレートスプリンクル、シナモンシュガーなどなど。どうでしょう? おとなでもわくわくするようなテーブルだと思いませんか?

おやつの時間になると、それぞれが自分のプレートに1枚のクレープを取って広げ、好きなものを選び好きなようにのせていきます。トッピングが終わったら生地の端っこからクルクルと丸めて筒状にしてたべます。

まるで絵を描くように彩りを考えて具材をのせていく子、とにかく自分が食べたいものをあつめてのせていく子……。

こどもたちはクリエイティブな部分を刺激されながら、自分で作品を作り上げるようなたのしさがある。大好きなEierkuchenの思い出です(今から思うと、そんな母の考え方の基準があったからこそ、大人になって自分でおやつを選ぶときには、健康を考えて材料を吟味したり、食べる量も自然と自分で管理できるようになったのだと思います)

Eierkuchenの作り方。

大きめのボウルに薄力粉(200g)、砂糖(大サジ1)、塩少々も入れて軽く混ぜあわせる。別の小さめのボウルに卵(3個)を割りほぐし、さきほどの粉のボウルに注ぎいれて泡立て器で滑らかになるまで混ぜる。ダマがなくなったら牛乳(200~250ml)を少しずつ注いでいき、その都度よく混ぜる。生地はさらっと流れるくらいのとろみ具合になるように牛乳で加減する。厚手のフライパンを中火にかける。温まったらバター(小サジ1)を溶かして生地をお玉いっぱいくらい流し入れてフライパンを揺らしながら広げて焼いていく。焼き目がついたら裏返してさっと焼く。おなじように一枚ずつ焼いていき、焼き上がったものからお皿に重ねる(必要に応じてバターを足して焼く)。フライパンの大きさにもよるが8~10枚くらい出来上がる。

焼き上がったらお好みで用意したトッピングを巻いて、どうぞ召し上がれ。ちなみに、わたしの一番のオススメの組み合わせはバナナとチョコチップと生クリーム。まちがいないおいしさです。

手作りのおやつは、難しくなく、家にある材料を使って作れるのが一番。このEierkuchenは破れにくい生地なのでクレープよりも簡単に作れます。そして最近では市販のチョコなどをトッピングしますが、祖母の時代には、季節のフルーツや手作りのジャムやコンポートをのせました。

お母さんのおやつには季節感があったり、家庭ごとの味や個性があったり。だからこそ、それぞれに魅力的であり、たいせつなものだと思うのです。

<プロフィール>

門倉多仁亜

1966年兵庫県生まれ。日本人の父とドイツ人の母の元で日本、ドイツ、アメリカで育つ。国際基督教大学卒業後、証券会社の勤務を経てコルドンブルーにてグランティプロムを取得する。

現在は、東京と夫の実家のある鹿児島の2拠点をベースに暮らしており、料理教室を主宰する傍ら、メディアを通してドイツ人のシンプルな暮らしをメディアを通して紹介する。

著者、「タニアのドイツ式心地よい暮らしの整理術」(三笠書房)、ドイツの焼き菓子(SBクリエイティブ)など。

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