5月1日号では「再生可能エネルギー」について考えてみましたが、現状では、コストや発電力の面などで、さまざまな課題を抱えていることも事実です。そこで今回は、エネルギーの専門家である MCリテールエナジー株式会社 新規事業部 部長 小野寺伸さんに、再生可能エネルギーとは別の方法で脱炭素社会の実現を目指す取り組み「カーボンニュートラル」について、そして、今、私たちにできる選択とはどのようなことか、お話を伺っていきます。
これからの発電とエネルギーはどうあるべきか
DOWELL 編集部: まず、これからの発電とエネルギーはどうあるべきか、お聞かせください
小野寺さん: 電気を含むエネルギーは、生活に欠かせない存在です。家電はもちろん、インターネットも電気が必要です。 世界の最終エネルギー消費量(産業活動や交通機関、家庭など消費者に使用されるエネルギーの総消費量)は、1971年から 2017年までの46年間で約2.3倍に増加しました。国際エネルギー機関(IEA)の発表によると、今のままの政策で進むと、エネルギー需要は2040年まで毎年1.3%ずつ増加する見込みです。
現状のような発電を続け、仮に今より気温が2°C上昇した場合、地球は様変わりするでしょう。未来の子どもたちのためにも、これ以上、異常気象での犠牲を増やさないよう、我々でできることに取り組まなければなりません。
DOWELL 編集部: それは今すぐにでも取り組まなければいけませんね。何か対策はあるのでしょうか
小野寺さん: 世界で注目され、日本にも定着しつつあるのが「VPP」です。「VPP」とは、「バーチャルパワープラント(Virtual Power Plant)」の略称で、日本語に訳すと「仮想発電所」となります。全国各地に存在する小規模の再生可能エネルギー発電所、小型発電所、 デマンドレスポンスによる消費抑制をまとめて制御・管理することで、一つの発電所のように機能させることができます。電力の需要と供給のバランスがコントロールできる、すなわ ち効率的に電力を利用できるというメリットがあります。
カーボンニュートラルとは
DOWELL 編集部: 菅首相が、先の国会で「2050年にカーボンニュートラルを目指す」と宣言しましたが、そもそも「カーボンニュートラル」とは何なのでしょうか。
小野寺さん: 「カーボンニュートラル」についてお話する前に、皆さんも聞いたことがあるかもしれませんが、よく似た言葉である「カーボンオフセット」について説明しましょう。「カーボンオフセット」とは、CO2 などの温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出せざるを得ない温室効果ガスについて、その排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資などを行うことにより、排出される温室効果ガスをオフセットする(埋め合わせる)という考え方です。
「カーボンニュートラル」とは、その取り組みをさらに深化させ、温室効果ガス排出総量のすべてを、他の場所で排出量を削減したり、また吸収させたりすることによって差し引きゼロにすることを目指す取り組みのことです。 壮大な国家レベルの計画のように聞こえますが、実は、環境に優しい電力に切り替えたり、収益で森作りを行う商品を応援したりすることで、この取り組みに私たちも参加することができるのです。
(参照)資源エネルギー省「カーボンニュートラル」って何ですか?
自分にはどんな電力会社がよいのか考えてみよう
DOWELL 編集部: 「環境に優しい電力に切り替える」ことと「カーボンニュートラル」は、どのような関係があるのですか?
小野寺さん: 「カーボンニュートラル」の取り組みですが、2050年までに脱炭素社会を実現するためには、私たちが電力の消費について見直す必要があります。では、そのためにはどのような方法があるのでしょうか。毎日節電に励む、省エネ家電に買い替えるなど、いろいろな方法があると思います。もちろんそれも効果的ですが、実は、電気そのものを選ぶという方法もあるのです。
DOWELL 編集部: 「電気そのものを選ぶ」というのは、どのようなことでしょう?
小野寺さん: 日本では、2016年4月に電力の全面自由化が導入され、一般家庭でも、自分のスタイルに合った電力会社を選べる時代になりました。環境のことを考慮している電力会社、暮らしに役立つサービスが受けられる電力会社など、自由に選べるのです。 スマホのナンバーポータビリティより簡単な手続きなので、一度、自分にはどんな電力会社がよいのか考えてみるのも楽しいと思います。
DOWELL 編集部: どのような観点で選べばいいのでしょうか
小野寺さん: 実は、環境に優しい電力会社やサステナブルな取り組みをしている電力会社に切り替えたいというニーズは年々増えているんです。もちろん太陽光発電や風力発電などの 再生可能エネルギーで発電したエネルギーを利用するという選択もありますが、昨今話題となっている「環境価値」という考え方を知っておくと、電力会社を選ぶ上で賢い選択ができる手助けになると思うので、少しご説明したいと思います。
太陽光発電や風力発電など CO2を排出しない発電方法で作られた電気は、CO2を削減できる付加価値があるとされ、「電気としての価値」プラス「環境価値」と2種類の価値を持つという考え方です。例えば、企業間で「環境価値」を取引できるように「グリーン電力証書」「J-クレジット」「非化石証書」など、その価値を証書化した制度があります。証書化することによって、電気と切り離してその価値を取引できるようになるのです。「環境価値」という考え方を用いることで、発電時に排出した CO2を全量プラスマイナスゼロにする「カーボンニュートラル」や一部を相殺する「カーボンオフセット」という仕組みが可能となります。
電気代が高くなるというジレンマも
DOWELL 編集部: それはすばらしい仕組みだと思いますが、そのような複雑なことをせずに、すべての電気を再生可能エネルギーで賄うことはできないのでしょうか
小野寺さん: 再生可能エネルギーでの発電は、自然の力を借りて発電することになるのですが、現実には、ずっと晴れの日が続くわけでも、風が吹き続けることもありません。実は安定的な電力供給にはまだ課題があるのです。例えば、真夏の昼間、エアコンの使用などで電力需要が高まり発電量が足りずに停電になることを避けるためにはバックアップ電源が必要になるなど、コスト高になるという構造も避けられません。
皆さんの中には、年々、ご自身が払っている電気代が高くなっている感覚をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。電気代の明細書に「再生可能エネルギー促進賦課金」という項目があり、実は再生可能エネルギーを普及させるための補助金原資を国民全員で負担していて、年々、この賦課金単価が上昇しているのです。2021年度は標準家庭で年間 1万円を超えると経産省が発表しています。 再生可能エネルギーを普及させたいけれど、国全体として電気代が高くなるというジレンマを、利用者も電力会社も抱えているのが実態です。
DOWELL 編集部: 全員にとってメリットのある解決策はないのでしょうか
小野寺さん: 気候変動への対策、すなわち CO2排出量削減に対する万能な解決策は現時点では見つかっていませんが、地球温暖化は待ったなしの状態で刻々と進んでおり、できることすべてに取り組まなければいけないと思います。
再生可能エネルギー100%のプラン、CO2排出量が実質ゼロになるカーボンニュートラルを実現したプラン、または利益の一部を森林保全活動に寄付するプランなど、どれも価格面、 環境負荷、安定供給などメリット・デメリットを考えた上で、現状で最良のプランを電力会社各社から提供していると思います。
もちろん、私たち MCリテールエナジーが提供する「まちエネ」も、環境価値である非化石証書を購入することで、カーボンニュートラルを実現した電気「CO2フリープラン」やEV・PHEVオーナー向けの「毎晩充電し放題!CO2フリープラン」を提供させていただいています。いずれも、CO2排出量が実質ゼロとなり、家計への負担、環境負荷低減のバランスを考え、設計されたプランです。(※注)
(※注)MCリテールエナジー株式会社 電源構成
私たちの暮らしに「いいこと」
DOWELL 編集部: 脱炭素社会への貢献はもちろんですが、私たちの暮らしに「いいこと」はありますか?
小野寺さん: 誰も何もしなければ、このまま地球温暖化が進みます。でも、皆がそれぞれ地球に優しい電気を求めることで、電力会社もより一層、環境負荷を低減できる発電技術を開発したり、蓄電池やバーチャルパワープラントといった仕組みを深化させたり、社会そのものがもっとよくなっていくように進化を続けています。食事や衣類と同様にエネルギーもサステナブルになることで、地球に優しい電気を使っている企業や商店であるということが、お客様にも喜んでいただけるようになる日も近いかもしれません。
DOWELL 編集部: 「カーボンニュートラル」に貢献するには、私たちはどのようにすればよいのでしょうか
小野寺さん: 電気の切り替えはスマホで 5~10分程度です。先ほどお話しした「まちエネ」の「CO2フリープラン」のようなカーボンニュートラルな電気に一度切り替えてしまえば、その後は何も意識しなくとも、毎日環境に優しい取り組みをしていることになるんです。 また、現在環境省が EV購入補助金を最大80万円支援している制度がありますが、EV・PHEVの購入を予定されている方であれば、「まちエネ」の「毎晩充電し放題!CO2フリー プラン」の電力プランに切り替えるだけで、車の燃料費を大幅に削減できる上、最大80万円の補助金を受け取れるので、車の運転を含め日々の生活においてもサステナブルなライフ スタイルをおくる一助になると思います。 コロナ禍で、これまでの浪費の多いライフスタイルに疑問を持つ方が増えている中、毎日の 暮らしに欠かせない電気をきっかけに、みんなで手を取り合って日々「Do well by doing good.」な活動を実践していきたいですね。
エネルギー問題がすぐに解決する100点満点の答えはありません。しかし、私たちにできることは、まずは知って、選んで、続けるということ。小さなアクションですが、皆で変えていけば、次の世代に美しい環境を残すことが可能になる大きなアクションにつながると考えています!
MCリテールエナジー株式会社 新規事業部 部長 小野寺伸
システム開発会社にて経営戦略室長を経験後、2011年から株式会社エナリスにて、 豊田市のスマートグリッド実証実験や、行動誘導型DRサービスのプロジェクト統括、HEMS/MEMSの企画・開発を担当。その後、渉外企画課長として、経産省の制度設計等に関わる委員を歴任。2016年からはVPP実証事業の企画責任者として、事業立ち上げやアライアンスを担当。現在はMCリテールエナジー株式会社にて新規事業部長としてVPP事業や、EVを活用したダイナミックプライシング実証等の新規事業開発を統括している。
提供:MCリテールエナジー株式会社
https://www.machi-ene.jp
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